経営戦略論

PEST分析とは?マーケティング戦略の「勝機」を見つける外部環境分析

今のビジネス環境は、昨日までの常識が今日通用しなくなるほど変化のスピードが早まっています。

「良い商品を作れば売れる」時代は終わり、法規制ひとつ、AI技術の進化ひとつで、業界のルールが一変してしまうことも珍しくありません。

そんな不確実な時代において、マーケターが最初に手に取るべき「羅針盤」となるのが「PEST分析」です。

この記事では、単なる用語解説にとどまらず、「分析結果をどうやって具体的なマーケティング施策や事業戦略に落とし込むか」までを、実務レベルで徹底解説します。

1. PEST分析とは?マーケターが最初に見るべき「環境の地図」

PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境(マクロ環境)を、以下の4つの視点から分析するフレームワークです。

  • P:Politics(政治的要因)

  • E:Economy(経済的要因)

  • S:Society(社会的要因)

  • T:Technology(技術的要因)

最大のポイント これらはすべて、「自社ではコントロールできないが、ビジネスに決定的な影響を与える要因」であるということです。

例えば、以下のような変化が起きれば、どんなに優れた社内戦略も修正を余儀なくされます。

  • P: 法改正で、これまでの広告表現が規制される

  • E: 金利や為替の変動で、顧客の投資余力がなくなる

  • S: Z世代の台頭により、消費の価値観が「所有」から「利用」へ変わる

  • T: 生成AIやMAツールの普及で、マーケティングプロセスそのものが自動化される

PEST分析は、こうした外部環境の変化を整理し、「今の戦略は、時代の風向きに合っているか?」を問い直すためのスタート地点なのです。

2. PEST分析をやると何がうれしいのか?

忙しいマーケティング担当者や経営層が、わざわざ時間を割いてPEST分析を行うメリットは4つあります。

2-1. 中長期の「追い風」と「向かい風」が見える

ビジネスには必ず「流れ」があります。それを見極めることで、無駄な努力を減らせます。

  • 追い風(機会):

    • 例)インボイス制度やDX推進 → SaaSやクラウドサービスにとっての市場拡大チャンス

  • 向かい風(脅威):

    • 例)Cookie規制の強化 → リターゲティング広告の精度低下、新規獲得コストの増大

2-2. 戦略・施策の「説明力」が上がる

経営会議や他部署との調整で、「なぜ今、この施策に予算を投下すべきなのか?」と聞かれた際、PEST分析に基づいた客観的な根拠があれば説得力が段違いです。

改正法の施行により競合が参入しにくくなる今こそ、シェア拡大のチャンスです」 「生成AIの普及で、この業務コストは今後1年で半減できる見込みです」

といったロジックは、主観的な意見よりもはるかに強力です。

2-3. 他のフレームワークの「前提」として使える

PEST分析単体で終わらせず、他の分析手法とセットで使うことで真価を発揮します。

  • 3C分析: Customer(市場・顧客)を取り巻く環境整理にPESTを活用

  • 5フォース分析: 業界構造を変える規制や技術変化の予兆を掴む

  • SWOT分析: 外部環境の「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」を抽出する材料にする

3. 他フレームワークとの違い・役割分担

「3C分析やSWOT分析と何が違うの?」と迷う方のために、関係性を整理します。

3-1. 3C分析とPEST

  • PEST: 社会全体・国・世界レベルの「マクロ環境」

  • 3C: 市場・顧客・競合・自社といった「事業に近いミクロ環境」

[図解イメージ:PEST(外側)→ 3C(内側)]

イメージとしては、以下の順番で思考するのが自然です。

  1. PESTで“大きな潮の流れ”を見る

  2. その前提をもとに3Cで「自社の勝ち筋」を探る

  3. SWOTで「やるべきこと・やらないこと」を絞り込む

3-2. SWOT分析とPEST

SWOT分析は「内部要因(強み・弱み)」と「外部要因(機会・脅威)」を整理するものですが、PESTはこのうち「外部要因(機会・脅威)」を漏れなく見つけ出すための“下準備”にあたります。

いきなりSWOT分析を始めると視野が狭くなりがちですが、先にPESTを行うことで、広い視野でリスクとチャンスを洗い出せます。

4. 失敗しないPEST分析のやり方【5ステップ】

ここからは実践編です。形だけの分析で終わらせないための5つのステップを紹介します。

Step 0. 目的とスコープを決める

まず、「何のために分析するのか」を明確にします。ここがブレていると、ただニュースを並べただけの資料になってしまいます。

  • 新規事業(例:D2Cブランド立ち上げ)のため?

  • 既存事業のテコ入れ(例:ECチャネル強化)のため?

  • 対象エリアは日本国内か? 海外か?

Step 1. 情報収集:とにかく“広く”集める

最初は完璧を目指さず、気になったニュースやデータを広く集めます。

【おすすめの情報ソース】

  • 官公庁の白書・統計(総務省、経産省など)

  • 業界団体のレポート

  • 日経、NewsPicksなどの経済メディア

Step 2. P/E/S/Tに仕分けしていく

集めた情報を4つの箱に入れていきます。「どっちかわからない要因」は、あまり神経質にならず、チームで議論しながら分類すればOKです。

Step 3. 重要度とインパクトで優先順位をつける

ここが重要です。すべての要因に対応することは不可能です。 各要因を以下の2軸で評価し、優先順位をつけます。

  1. ビジネスへの影響度(大/中/小)

  2. 発生確率 or 実現スピード(高/中/低)

  • 最優先: [影響大 × 確率高] → 戦略の核に据える

  • リスク対策: [影響大 × 確率低] → シナリオを用意しておく

Step 4. 戦略・施策の示唆に落とし込む

PEST分析のゴールは「へぇ、そうなんだ」ではありません。「だから、我々はどうする?」という意思決定です。

  • 「個人情報保護の強化」→ (だから) 脱Cookie依存を目指し、1st Partyデータ基盤を構築する。

  • 「円安長期化」→ (だから) 海外向けサービスの価格を見直し、日本市場向けプランを強化する。

Step 5. 文書化・共有・定期的なアップデート

PEST分析は生ものです。半期に一度、あるいは経営計画策定のタイミングで見直しを行いましょう。Notionやスプレッドシートで履歴を残しておくと、変化の推移がわかりやすくなります。

5. P/E/S/Tそれぞれの具体例(2025年版)

マーケティング担当者が特に注目すべきトレンドを例示します。

5-1. Politics(政治・法規制)

  • 個人情報保護・Cookie規制: Web広告のあり方が根本から変わります。

  • インボイス・電帳法などDX関連法: BtoBツールの導入契機となります。

  • SDGs・環境規制: 欧州を中心に、環境対応していない製品が排除される動きも。

5-2. Economy(経済)

  • 物価上昇・インフレ: 「安さ」か「圧倒的な付加価値」か、二極化が進みます。

  • 人手不足・賃上げ: 採用難による省人化ニーズ(AI、ロボット、SaaS)が爆発的に増加。

5-3. Society(社会・価値観)

  • タイパ(タイムパフォーマンス)志向: 短時間で成果が出るもの、結論が早いコンテンツが好まれます。

  • 推し活・コミュニティ消費: 機能的価値より「誰が勧めているか」「どのコミュニティに属するか」が購買決定打に。

5-4. Technology(技術)

  • 生成AIの実装: コンテンツ制作、カスタマーサポート、データ分析が自動化されます。

  • MA・CRMツールの進化: 顧客一人ひとりに合わせたOne to Oneマーケティングが必須化。

6. すぐ使えるPEST分析テンプレート

コピペしてスプレッドシートやExcelに貼り付けられる簡易テンプレートです。

要因区分 要因 (Fact) 詳細・事実 ビジネスへの影響 (機会/脅威) 重要度 アクションの方向性
P 個人情報保護強化 Cookie規制、オプトイン必須化

(脅威) リタゲ精度低下

 

(機会) 会員基盤の価値向上

CRM強化、LINE公式アカウント活用
E 物価上昇 原材料高、実質賃金低下

(脅威) 買い控え

 

(機会) コスパ商品の需要増

エントリープラン新設、価格転嫁のストーリー作り
S タイパ志向 ショート動画流行、倍速視聴 (機会) 短尺動画広告の反応率UP 動画クリエイティブの量産体制構築
T 生成AI普及 ChatGPT等の一般化

(脅威) 競合のコンテンツ量産

 

(機会) 制作コスト削減

社内AI活用ガイドライン策定、ツール導入

7. 事例:D2CコスメブランドのPEST分析

【前提】 20〜30代女性向けスキンケアブランド(EC主体)

  • P (政治): 薬機法(旧薬事法)の運用厳格化。

    • 戦略: 攻めた表現はリスク大。クリーンな表現と「開発ストーリー」で信頼を獲得する方針へ。

  • E (経済): 原材料費の高騰。

    • 戦略: 単品販売での利益確保が困難に。「定期便」や「セット販売」への誘導を強化し、LTV(顧客生涯価値)を高める。

  • S (社会): 「盛る」メイクから「素肌・成分」重視へ。ミニマリスト志向。

    • 戦略: パッケージをシンプルにし、成分の透明性を訴求するコンテンツ(NoteやInstagram)を強化。

  • T (技術): SNSアルゴリズムの変化、UGC(ユーザー投稿)の重要性増。

    • 戦略: 広告費の一部を、インフルエンサー施策やギフティング施策にシフト。一般ユーザーのレビューをECサイトに実装。

このように、PEST分析を行うことで、4P(製品・価格・流通・販促)のすべてに一貫した戦略を通すことができます。

8. PEST分析を「武器」にするためのインプット術

PEST分析の質は、結局のところ「インプットの質」に依存します。 質の高い情報を効率よく集め、マーケティング脳を鍛えるためのおすすめツールと書籍を紹介します。

■ おすすめ講座

体系的に学びたい方は、やはり「本」や「動画講座」がベストです。

  • オンライン学習として相性が良いのが、【GLOBIS 学び放題】です。
    グロービス経営大学院のノウハウをベースにしたビジネス動画が17,800本以上見放題で、思考・マーケティング・戦略・会計・ファイナンスなどの基礎を、5〜10分程度の短い動画でスキマ時間に学べます。

      • スマホでスキマ時間に視聴できる

      • PEST分析だけでなく、経営戦略のフレームワークをスマホで隙間時間に学べます。

      • 年間プランでも1ヶ月あたり約1,700円前後で始められ、7日間の無料体験もあり

9. まとめ:PEST分析は「一度きりの作業」ではなく「習慣」

PEST分析は、以下の4つの視点で世界を見る習慣そのものです。

  1. Politics(政治)

  2. Economy(経済)

  3. Society(社会)

  4. Technology(技術)

世界が動けば、ビジネスの前提も変わります。 「最近、広告の反応が悪いな…」「競合の動きがおかしいな…」と思ったら、まずは一度立ち止まり、PESTの視点で環境を見渡してみてください。

きっと、今まで見えていなかった「新しい勝ち筋」が見つかるはずです。

  • この記事を書いた人
Glass

Glass

【経歴】
▶︎ ITベンチャー/営業部長 ▶︎ リーガルテック事業責任者 ▶︎ 大手広告代理店 ▶︎マーケティング支援企業 ▶︎コンサルマーケ職(現職)
MBA(経営学修士),WEB解析士
【専門領域】
マーケティング・サイエンス,行動経済学,消費者行動,マーケティング・オートメーションなど
【コンタクト】
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