目次
1. SECIモデルとは何か?──一言でいうと「知識が増殖する仕組み」
SECIモデルは、野中郁次郎氏らが提唱した「知識創造のプロセス」を4つのステップで表したフレームワークです。
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S:Socialization(共同化)
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E:Externalization(表出化)
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C:Combination(連結化)
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I:Internalization(内面化)
この4つの頭文字を取って「SECI(セキ)モデル」と呼ばれています。
ポイントは3つです。
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暗黙知と形式知の相互変換に着目している
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個人の知識がチーム・組織全体の知識へとスパイラル的に広がることを説明している
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新商品の開発やマーケティング戦略の立案など、イノベーションが必要な領域で役に立つ
マーケター視点で言い換えるなら、
「現場の経験(暗黙知)を、仕組み化・コンテンツ化(形式知)して、組織の成果に変えていくためのフレーム」
と捉えると理解しやすくなります。
2. SECIモデルの4つのプロセス
2-1. S:Socialization(共同化)
暗黙知 → 暗黙知
「一緒にやってみる」「背中を見せる」で、感覚やコツが伝わるフェーズです。
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OJT(先輩と一緒に営業訪問)
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顧客インタビューに同席
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キャンペーン施策の企画会議に若手を同席させる
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ベテラン担当者の画面共有を見ながら運用型広告の管理を覚える
ここではまだ、言語化やマニュアル化はされていません。
しかし、現場の空気感や「なぜそれをやるのか」という感覚的な部分が、
体験を通じて共有されていく重要な段階です。
2-2. E:Externalization(表出化)
暗黙知 → 形式知
経験や感覚を、言葉や図解、フレームワークに落とし込むフェーズです。
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「この提案がうまくいった理由」を構造化してスライドにまとめる
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ペルソナ・カスタマージャーニーマップをチームで作成する
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成功パターン・失敗パターンをナレッジとして社内Wikiに記録
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営業トークスクリプトを作る
ここで大事なのは、
「なぜうまくいったのか?」を、誰でも再現できるレベルまで分解することです。
例:広告運用の暗黙知を表出化する場合
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「クリック率を上げるコピーのコツ」を3パターンに整理
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「CPAが悪化したときのチェックリスト」を作成
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「この業界ではこの訴求が刺さりやすい」という仮説を言語化
2-3. C:Combination(連結化)
形式知 → 形式知
バラバラに存在する情報・ナレッジをつなげて、新しい知識体系として再構成するフェーズです。
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各メンバーの成功事例を集約して「ベストプラクティス集」を作る
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マーケティングデータと顧客インサイトを組み合わせた「戦略レポート」を作成
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MAツール・SFA・アクセス解析など複数のデータソースを統合してダッシュボードを構築
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過去施策・競合調査・顧客インタビューを組み合わせて新プロジェクトの戦略資料を作る
ここでは、「情報を集める」のではなく「編集する」ことが重要です。
2-4. I:Internalization(内面化)
形式知 → 暗黙知
ドキュメントやルールとして整理された形式知を、
実践を通じて自分のスキル・感覚として身につけるフェーズです。
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マニュアル通りに実行してみて、徐々に自分流にアレンジする
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テンプレートを使いながら提案書を何本も書いて「勘所」がつかめてくる
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ナレッジ集を読んだあとに実戦で使ってみて、「このパターンならこの施策だな」と直感で判断できるようになる
ここまでくると、
「わざわざ考えなくても、自然とできている状態」になります。
この内面化まで回し切ることで、
個人のスキルレベルが底上げされ、組織全体の競争力アップにつながるのがSECIモデルの狙いです。
3. マーケティング現場でのSECIモデル活用事例
3-1. コンテンツマーケティングのナレッジ循環
S(共同化)
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SEO担当と営業担当が一緒に顧客訪問に同行
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「なぜそのキーワードで検索してくるのか」を生の声で理解
E(表出化)
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顧客の口癖・課題・使っている言葉を整理し、「記事テーマ案」としてまとめる
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「問い合わせに繋がった記事の共通点」を分解してチェックリスト化
C(連結化)
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キーワード調査、競合記事、顧客インタビューを組み合わせて、コンテンツ戦略ロードマップを作る
I(内面化)
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ライター・編集者がその戦略に沿って記事制作を繰り返し、
「売上につながる記事の感覚」がチーム全体に染み込んでいく
3-2. 広告運用チームのスキル標準化
S:上級者のキャンペーン設計を画面共有で見せる/週次の振り返りMTG
E:成果の良いアカウント構造をテンプレート化/クリエイティブの勝ちパターンを一覧化
C:テンプレ・チェックリスト・運用ルールをまとめた「広告運用プレイブック」を作成
I:新人がプレイブックを見ながら実際に運用し、月次でレビューを受けることで感覚を養う
3-3. BtoB営業 × マーケ連携での活用
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S:商談同席・展示会・ウェビナー運営を一緒に経験
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E:営業現場の「よくある質問」「刺さったトーク」をFAQ・ホワイトペーパー化
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C:FAQ・商談ログ・サイトのアクセスデータを組み合わせてナーチャリングシナリオを再設計
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I:営業・マーケ両方が新シナリオで運用しながら、さらに改善点を体得
4. 失敗しがちなSECIモデル運用パターン
パターン1:E(表出化)で止まる
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ナレッジは社内Wikiにあるが、誰も見ていない
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「一応まとめただけ」で終わってしまい、現場で活用されていない
対策
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定例MTGで「ナレッジ共有の時間」を必ず設ける
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ナレッジをもとにした「実行タスク」まで落とし込む(例:来月からこのテンプレを全案件で使う)
パターン2:C(連結化)が弱く、「ナレッジの島」が乱立
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各部署・各チームが自分たちだけのルールや資料を持っている
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組織全体でノウハウが統合されず、部署間で品質に差が出る
対策
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全社共通のナレッジプラットフォームを用意する
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Cフェーズ専任の「編集者」役(ナレッジマネージャー)を置く
パターン3:I(内面化)に向けた「実践の場」がない
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研修資料やマニュアルは充実しているが、
実際に試す余地やフィードバックの場が不足している
対策
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ロールプレイング・小さな実証実験・A/Bテストなど、実践の場を意図的に設計
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成果をレビューし、再度S→E→C→Iに乗せる
5. SECIモデルを組織に定着させる5つのステップ
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現状のナレッジフローを可視化する
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知識が「どこで生まれ」「どこで止まっているか」を棚卸し
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S(共同化)の場を設計する
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横断プロジェクト、勉強会、同行、シャドーイングなど「一緒にやる」機会を増やす
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E(表出化)のフォーマットを決める
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成功事例テンプレ・失敗事例テンプレ・チェックリストなど
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C(連結化)を担う役割を明確にする
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ナレッジを編集する人・チームを決め、情報を集約させる
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I(内面化)のためのサイクルを回す
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実践→振り返り→改善を、月次・四半期などのリズムで回す
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6. SECIモデルとナレッジマネジメントツールの組み合わせ方
SECIモデルを実践するうえで、ツール選定も重要なポイントです。
6-1. S(共同化)を促進するツール
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オンラインMTGツール(Zoom, Google Meet など)
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社内チャット(Slack, Microsoft Teams など)
訴求例
「リモート環境でも共同化(S)を加速させたい企業には、録画機能や画面共有がスムーズなオンラインMTGツールが有効です。」
6-2. E(表出化)・C(連結化)を支えるナレッジ基盤
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社内Wiki・ノートツール(Notion など)
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プロジェクト管理ツール(Asana, Trello など)
訴求例
「成功事例や提案資料を埋もれさせないためには、Notionのような“見つけやすいナレッジベース”があると、EとCのプロセスが一気にスムーズになります。」
6-3. I(内面化)を後押しする学習プラットフォーム
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eラーニング・オンライン講座サービス
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マイクロラーニングの仕組みを持つツール
訴求例
「ドキュメントを読んだあと実際に手を動かして学べるオンライン講座を組み合わせることで、I(内面化)のスピードが加速します。」
SECIモデルは「知識のPDCAサイクル」として回し続ける
SECIモデルを一言でまとめると、
「暗黙知と形式知をぐるぐる回して、知識を増殖させるPDCAサイクル」
です。
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S:共同体験で感覚を共有し
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E:言語化・可視化して
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C:集約・編集して体系化し
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I:実践を通じて自分のものにする
このサイクルを回し続けることで、
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個人のスキルが底上げされる
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チームの再現性が高まり、属人化が減る
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組織としての競争優位性が高まる
特にマーケティング・営業・プロダクト開発など、
「人の経験」が成果を大きく左右する領域では、SECIモデルを意識したナレッジ設計が大きな武器になります。