SNS・広告・EC・オウンドメディア…
マーケティングの現場では、日々膨大なデータが生まれ続けています。
「データはあるのに、Excelで集計して眺めて終わり…」
「なんとなくグラフは作っているけれど、施策改善のヒントに落とし込めていない…」
そんな状態から抜け出すには、
「どんなタスクに、どのExcel機能・どの分析手法を使うのか」 を整理して理解することが近道です。
この記事では、マーケターが現場でよく直面するタスクを起点に、
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どんな課題に
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どのExcel機能・統計手法が効くのか
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具体的にどう操作するのか(How)
まで、実務目線で解説します。
名寄せ・ピボットテーブルといったおなじみの機能から、
相関分析・カイ二乗検定・回帰分析・シミュレーション まで、一通り押さえれば「Excelでここまでできるのか」と感じてもらえるはずです。
目次
- 1 1. マーケターがExcelを「分析ツール」として使いこなすべき理由
- 2 2. マーケティングタスク × Excel解決方法マップ
- 3 3. データ前処理:名寄せ・クレンジングで「使えるデータ」にする
- 4 4. 集計・可視化:ピボットテーブルで全体像をつかむ
- 5 5. 相関分析:KPI同士の関係性を探る
- 6 6. カイ二乗検定:クロス集計で「差があるか」を検証する(A/Bテストにも応用)
- 7 7. 回帰分析:売上を説明する要因を特定する
- 8 8. シミュレーション&予算配分:ゴールシーク・シナリオ・データテーブル
- 9 9. 作業の自動化と高度化:マクロ・Power Query・Power Pivot
- 10 10. Excelを使いこなして「データドリブンなマーケター」へ
- 11 11. 学びを定着させるための次の一歩
1. マーケターがExcelを「分析ツール」として使いこなすべき理由
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1-1. 導入ハードルが低く、ほぼ全社共通の“言語”
多くの企業でExcelは標準インストールされており、追加費用もほとんどかかりません。
専門的なBIツールに比べて、誰もが使える共通ツールとして機能するのが最大の強みです。1-2. 分析プロセスの基礎を身につけるトレーニング場
PythonやBIツールに進む前に、
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データを集める
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整える(クレンジング・名寄せ)
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集計・可視化する
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仮説を検証する(統計・シミュレーション)
という一連の流れを体感するには、Excelが最適です。
「どの数値を見れば意思決定できるか」を考える癖をつける場としても優秀です。 -
2. マーケティングタスク × Excel解決方法マップ
まずは「どんな場面で、何を使うのか」を一覧で整理します。
| マーケティングタスク | 使うExcel機能・手法 | 主な目的 |
|---|---|---|
| リード・顧客データの整理(重複・表記ゆれ) | 名寄せ、重複の削除、IF / SUBSTITUTE / VLOOKUP / XLOOKUP | 分析に耐えられる“きれいなデータ”を作る |
| 月次レポート作成・セグメント別集計 | ピボットテーブル、ピボットグラフ | 売上・CV・CPAなどKPIの全体像を素早く把握 |
| 広告費と売上、メール開封率とCVRの関係把握 | 相関分析(CORREL関数、分析ツール) | どの指標同士が関係していそうかを確認 |
| セグメント間の反応差(男性 vs 女性など) | クロス集計+カイ二乗検定(CHISQ.TEST) | 反応に“有意な差”があるかを検証 |
| A/Bテストの結果検証 | 2×2表+カイ二乗検定(CHISQ.TEST) | 新施策が本当に効いているかを統計的に判断 |
| どの要因が売上に効いているかを知りたい | 回帰分析(分析ツール→回帰) | 売上を説明する重要な要因を特定 |
| 目標売上・目標CV数から必要な予算を逆算 | ゴールシーク、シナリオ マネージャー、データテーブル | KPIから逆算した予算・必要数値をシミュレーション |
| 定例集計・レポートの自動化 | マクロ・VBA、Power Query | 手作業を減らし、分析にかける時間を増やす |
以降の章では、このマップをたどりながら具体的な手順まで解説していきます。
3. データ前処理:名寄せ・クレンジングで「使えるデータ」にする
どんな高度な分析も、元データが汚れていたら意味がありません。
まずは名寄せとクレンジングで「分析できる状態」に整えます。
3-1. 重複データを削除する手順
タスク例:
・同じメールアドレスのリードが複数行存在している
・同じ顧客に複数の顧客IDが振られている
手順:
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対象データ範囲を選択
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リボンの「データ」タブ → 重複の削除 をクリック
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重複判定に使う列(例:メールアドレス列、電話番号列)にチェック
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OKを押して重複行を削除
※削除前に必ず元データをコピーしてバックアップを取るのがおすすめです。
3-2. 表記ゆれを統一する(IF・SUBSTITUTE・VLOOKUP/XLOOKUP)
よくある表記ゆれ:
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「東京都」「東京」「Tokyo」
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「株式会社マーケティングラス」「(株)マーケティングラス」
代表的な対応方法:
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一括置換(Ctrl + H)
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例:「東京都」を「東京」に置き換える など
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SUBSTITUTE関数で置換
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=SUBSTITUTE(A2,"(株)","株式会社")
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マスタテーブル+VLOOKUP/XLOOKUP
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左に「元の表記」、右に「標準化した表記」を並べたマスタを作成
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本体データに
VLOOKUPまたはXLOOKUPで標準表記を引く
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4. 集計・可視化:ピボットテーブルで全体像をつかむ
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4-1. ピボットテーブル作成手順
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データ範囲内のセルを1つ選択
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「挿入」タブ → ピボットテーブル
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新しいワークシート or 既存のワークシートを選択
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フィールドリストから
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「行」に セグメント項目(例:性別、年代、チャネル)
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「列」に 比較したい区分(例:キャンペーン名)
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「値」に 売上、CV数、クリック数など
をドラッグ & ドロップ
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4-2. マーケター向けの典型的な使い方
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セグメント別売上・CV数の可視化
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行:性別、年代
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列:媒体(メール、広告、SNSなど)
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値:売上、CV数、CVR(計算用列を作っておく)
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キャンペーン別ROI/CPA
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行:キャンペーン名
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値:広告費合計、CV数合計、売上合計
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計算列でCPA(=広告費/CV)、ROIなどを算出
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月次レポートの自動更新
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元データをテーブル化し(Ctrl + T)、
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新しいデータを追加 → ピボットテーブルを右クリック → 更新
だけでレポートを更新可能
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ピボットで全体像をつかんだら、次は指標同士の関係性を見ていきます。
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5. 相関分析:KPI同士の関係性を探る
5-1. 相関分析が向いている問い
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広告費を増やすと売上も増えているのか?
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メール開封率が高いほどCVRも高いのか?
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SNSフォロワー数が増えるとEC売上も伸びているのか?
ここで使うのが相関分析です。Excelでは、
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CORREL関数 -
「データ分析」アドインの 相関 機能
で実行できます。
5-2. 事前準備
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行:期間・単位(例:月、週、キャンペーンIDなど)
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列:
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広告費
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売上
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CV数
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開封率
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CVR など
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同じ行に比較したい指標が並んでいる状態にします。
5-3. CORREL関数で2変数の相関を見る
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例えば「B列=広告費」「C列=売上」の場合
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別セルに以下を入力
-
得られた値は -1〜+1の範囲
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+1 に近い:強い正の相関(増えると一緒に増える)
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0 付近:ほぼ相関なし
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-1 に近い:強い負の相関(増えると減る)
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5-4. データ分析ツールで相関行列をまとめて出す
分析ツールが有効になっていない場合:
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「ファイル」→「オプション」
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「アドイン」→「管理:Excelアドイン」→「設定」
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「分析ツール」にチェック→OK
相関行列の出し方:
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「データ」タブ → データ分析 →「相関」を選択
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入力範囲に、比較したい指標が並んだ範囲を列方向で指定
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「先頭行をラベルとして使用」にチェック(ヘッダー行がある場合)
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出力先を指定してOK
これで「どの指標がどれと強く関係していそうか」をざっくりつかめます。
※重要:相関がある=因果関係があるとは限りません。
施策のヒントを得る“入口”として使うのがポイントです。
6. カイ二乗検定:クロス集計で「差があるか」を検証する(A/Bテストにも応用)
相関分析が「連続値同士」の関係を見るのに対して、
カイ二乗検定は「カテゴリデータ(性別、媒体、キャンペーンなど)間で差があるか」を検証するのに使います。
A/Bテストの判定も、基本的にはこのカイ二乗検定で行えます。
6-1. カイ二乗検定が向いている問い
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男性と女性で、キャンペーンの反応率は違うのか?
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メールAとメールBで、CVした割合は有意に違うのか?
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新LPと旧LPで、申込率に差があるのか?
6-2. データをクロス集計表にする
例:性別 × CV有無
| CVした | CVしなかった | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 120 | 880 | 1000 |
| 女性 | 150 | 850 | 1000 |
こうした2×2のクロス表をExcelで作っておきます。
ピボットテーブルで「行=セグメント」「列=CV有無」「値=件数」で作成可能です。
6-3. CHISQ.TEST(またはCHITEST)で有意差をチェック
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上記のクロス表を、あるセル範囲に配置(例:B3:C4)
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各行・列の合計も計算しておく(B5:C5, D3:D4, D5など)
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別セルに以下を入力
※新しいExcelでは CHISQ.TEST、古いバージョンでは CHITEST を使います。
期待度数(「差がない」と仮定したときの理論値)は、通常は関数側で内部的に計算されますが、バージョンによって指定方法が異なるので、ご利用のExcelに合わせて調整してください。
出力される値(p値)の解釈:
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p値 < 0.05 → 「有意な差がある」と判断できる
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p値 ≥ 0.05 → 差があると言い切れない(たまたまのブレの範囲かもしれない)
6-4. A/Bテストへの具体的な応用例
A/Bテストも「バージョン(A/B) × 結果(CVした/しない)」のカテゴリデータなので、
カイ二乗検定で評価できます。
例:LP A/Bテストの結果
| CVした | CVしなかった | 合計 | |
|---|---|---|---|
| LP A | 50 | 950 | 1000 |
| LP B | 70 | 930 | 1000 |
この表を作り、先ほどと同じように CHISQ.TEST を使ってp値を求めます。
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p値 < 0.05
→ 「Bの方がAより有意に良い」 と判断しやすい -
p値 ≥ 0.05
→ 「Bの方が良さそうだが、偶然のブレかもしれない」 と慎重に判断
「なんとなくBの方が良さそう」ではなく、
統計的な裏付けを持って施策を採用・不採用できるようになります。
7. 回帰分析:売上を説明する要因を特定する
相関分析より一歩踏み込んで、
「売上に効いている要因を特定したい」 場合は回帰分析が有効です。
7-1. 回帰分析で答えられる問い
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広告費・来訪者数・メール配信数のうち、どれが売上に効いているか?
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様々な指標を同時に考慮した上で、売上を予測したい
7-2. 準備するデータ
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1列目:売上(目的変数)
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2列目以降:説明変数(広告費、来訪者数、メルマガ配信数、平均単価など)
行は、期間やキャンペーン単位で揃えておきます。
7-3. データ分析ツールで回帰分析を実行する
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「データ」タブ → データ分析 →「回帰」を選択
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「入力Y範囲」に目的変数の範囲(例:売上列)
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「入力X範囲」に説明変数の範囲(複数列まとめて)
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ラベル行が含まれている場合は「ラベル」にチェック
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出力先を指定してOK
7-4. 結果のどこを見ればよいか
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決定係数(R²)
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売上の変動をどれくらい説明できているか(1に近いほど説明力が高い)
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各変数の係数
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係数が正 → 値が増えると売上も増える傾向
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係数が負 → 値が増えると売上は減る傾向
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p値
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小さい(一般に <0.05)ほど、その変数が売上に影響している可能性が高い
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「広告費は効いているが、メルマガ配信数は効いていない」など、
どのKPIに注力すべきかを判断する材料になります。
8. シミュレーション&予算配分:ゴールシーク・シナリオ・データテーブル
分析の次は、「どう動かすと目標に届くか」を逆算します。
8-1. ゴールシークで単一変数の逆算
例:
「CV数 = 流入数 × CVR」
という式があり、CV数セルに「目標CV=1,000」を入れたいとします。
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目標とする式(例:CV数セル)を設定
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「データ」タブ →「What-If分析」→ ゴールシーク
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「数式入力セル」にCV数セル
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「目標値」に 1000
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「変化させるセル」に「流入数セル」または「CVRセル」を指定
これで、目標を達成するために必要な流入数やCVRが逆算できます。
8-2. シナリオ マネージャーで複数パターンを比較
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「広告費:100万円/200万円/300万円」の3パターン
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「平均単価:3,000円/3,500円/4,000円」の3パターン
など複数条件を組み合わせて、売上・利益への影響をシミュレーションできます。
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「データ」タブ → 「What-If分析」→ シナリオ マネージャー
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「追加」でシナリオ名・変更するセル・値を設定
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「概要」や「集計」で各シナリオを比較
8-3. データテーブルで感度分析
1つの数式に対して、ある変数を少しずつ変えたときの結果を一覧化するのに便利です。
例:CVRを0.5〜5%まで変化させた場合の売上シミュレーションなど。
9. 作業の自動化と高度化:マクロ・Power Query・Power Pivot
9-1. マクロ/VBAで定例作業を自動化
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毎週同じ形式のCSVを結合
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同じ手順で名寄せ・集計・レポート出力
といった「毎回同じクリックの繰り返し」は、マクロ登録で自動化できます。
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「表示」タブ →「マクロの記録」
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普段通りの操作を行う
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記録停止 → ボタンにマクロを割り当てる
VBAに慣れれば、さらに柔軟な自動化も可能です。
9-2. Power Queryでデータ取り込み・整形を効率化
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複数ファイルの取り込み
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列の分割・結合
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不要行の削除
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定期的なデータ更新
をGUIで設定しておき、「更新」ボタンひとつで再実行できます。
9-3. Power Pivotで大規模データを扱う
通常のピボットでは重くなるような大量データも、Power Pivotなら高速に集計できます。
BIツールの入門としても有効で、将来のPower BI活用にもつながります。
10. Excelを使いこなして「データドリブンなマーケター」へ
ここまで紹介した内容を整理すると、Excelは以下のような役割を担えます。
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名寄せ・クレンジングで、施策の前提となるデータ品質を高める
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ピボットテーブルで、KPIの全体像とセグメント別の傾向を素早く把握
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相関分析で、指標同士の関係性を探り、仮説のヒントを得る
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カイ二乗検定や回帰分析で、施策の効果や要因を統計的に検証
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ゴールシーク・シナリオ分析で、目標から逆算した計画・予算を立てる
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マクロ・Power Queryで、作業を自動化し“考える時間”を生み出す
Excelは決して“古いツール”ではなく、
デジタルマーケティング時代の基礎教養を身につけるための最強の練習場と言って良い存在です。
11. 学びを定着させるための次の一歩
最後に、Excel分析スキルを定着させるためのステップをまとめます。
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まずは自社の実データで試す
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月次レポートや簡単なA/Bテスト結果など、身近なデータから始める
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分析の“目的”から逆算する癖をつける
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「この数値を出して、何を決めたいのか?」を常に明確にする
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- 統計の基礎を体系的に学ぶ・相関係数・カイ二乗検定・回帰分析などを、ビジネス事例ベースで学べる講座や書籍を活用する
Excelで手を動かしていると、どうしても
- p値って結局なんなのか?
- 「有意差あり」ってどこまで信用していいのか?
- 回帰分析の係数を、どう施策に落とし込めばいいのか?といった“統計そのもの”への疑問が出てきます。
そこで役に立つのが、数式ゴリゴリではなく、ビジネスの文脈で統計の考え方を説明してくれる本です。
▼マーケターが最初に読むならこの1冊
以下の本は、統計を「武器」としてどう使うかをストーリー仕立てで解説してくれる一冊です。
- 数式より“考え方”を重視している
- 相関・回帰・仮説検証など、この記事で出てきたキーワードが網羅されている
- マーケティングやビジネスの意思決定にどう効いてくるのかがイメージしやすい「統計=難しそう」という苦手意識がある方の入門書としてかなり相性が良いと思います。
参考
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- この記事で紹介した相関分析・カイ二乗検定・回帰分析の意味付け
- 「なぜこの検定を使うのか」「結果をどう解釈するのか」が腑に落ちた状態で、Excel分析に取り組めるようになります。
- Excelだけで限界を感じたら、次のツールへ進む・BIツール、Python、BigQueryなどへのステップアップも視野に入れる
Excelで小さく始めて、
- 統計の基礎を本で押さえつつ
- 物足りなくなったら専用ツールへ広げていくという流れで学んでいくのが、マーケターにとって一番ムリのないステップアップです。
データを制する者が、マーケティングを制する時代。
Excelを「なんとなく使える」から「意思決定に使いこなせる」レベルまで引き上げることで、
あなた自身の市場価値も、大きく変わっていきます。